このたび、私たちが設計・監理した
《桃沢野外活動センター》が
雑誌『新建築』の10月号に掲載されました。
今月号のタイトルに「創刊95周年」とあるように、『新建築』は建築の専門誌としておよそ一世紀にわたってフロントラインを走ってきました。日々多くの建築が日本に誕生するなかで、建築家たちがその建築に込めた想いを写真と図面を通して社会に発信し、アーカイブしていくことが、そのまま歴史をつくることを意味します。
そのような名誉ある雑誌に《桃沢野外活動センター》が取り上げられたことを嬉しく思い、何より、加和太建設さんとのご縁があって、渡邉建設さんに施工してもらったからこその掲載であり、ここに深く感謝いたします。
建築家は常に「他者への想像力」を駆使して、未来を一緒につくる仕事です。《桃沢野外活動センター》に関しても、初めて敷地を歩いたときの「わくわく」を今でもはっきり覚えています。春の訪れがもうすぐそこまできている少し肌寒い爽やかな風が吹くなか、鳥のさえずりが聞こえ、圧倒的な自然の生命力を肌で感じていました。
掲載された文章にも
「自然と呼応する群としての建築を目指して」
というタイトルをつけたように、
そこにある桃沢の圧倒的な自然の魅力を
さらに感じられるような建築の姿を
ずっと想像していました。
それも、複数の建築が群をなすことで、
互いに響き合うハーモニーを
つくることをイメージしながら
設計を進めていきました。
最初はスケッチだったものが、
図面となり、
模型で検討を重ねながら、
最終的に建設されていく過程は、
とてもスリリングな体験でした。
この建築は、光嶋裕介建築設計事務所にとって初めての公共建築となります。
これまではクライアントと膝を突き合わせて議論しながら建築をつくってきましたが、公共建築となると、はっきりとした「顔が見える」わけではありません。しかし、これらの建築を利用する子供たちを想像しながら建築をつくることにおいて、何も変わりませんでした。コロナ禍にあって、オープンが延期になりましたが、最大限の感染予防対策を講じながらも地元の方々をはじめ、全国から多くの方々に来てもらっていることが何より嬉しいです。
建築は人と一緒に成長します。
そして、まわりの環境とともに成長します。
人と建築と自然が結びつくことで、
生命力が循環するのです。
すべてが機械で制御された密閉空間に閉じ込められるような都市生活から離れて、野生の自然と豊かに関わり合う時間を求めて《桃沢野外活動センター》がこれから沢山の人にとって憩いの場所となり、生きることの意味を考える機会にもなることでしょう。
猛スピードで進んできた現代のグローバル資本主義や成長することでしか持続できなくなってしまった新自由主義経済によって社会の貧富の差が大きくなり、分断が広がる不寛容なパンデミックの時代にあって、今一度足元の自然の声に耳を傾け、自身の身体で思考し、本当の幸せがどこにあるのかを考えられるような学びの場所となることを設計者として心より願っています。
光嶋裕介(建築家)